志田悠帆先生
日本掲載記事より
ツル籠は世紀を超える
山形県の月山一帯で採れる山ブドウ。悠帆先生は、そのツルを編んだ籠を古くから伝わる製法で作り続けている。
山に入ってツルを刈り、仕上げまですべて手作業で作る籠は100年持つとされています。
籠の表情はふたつとして同じものはなく、編み方にもバリエーションがある。
名人の叔父が指導
月山と朝日連峰に挟まれた山形県西川町で1948年に生まれた。
山ブドウの籠には農具として背負うタイプや日常生活で使う手提げ型などがあり、どの家にもいくつかあった。
冬になると雪が3メートルも積もる山村で、冬場の内職として作られていた。
もともと量産して売るようなものではなかったが、私の叔父がツル籠つくりの名人とされていて、子供の頃に少し手伝ったことはあった。
高校卒業後は、故郷を離れて家電販売などをしていたが、約15年前、家族に勧められて叔父にツル籠づくりを習った。
その後、夜間や休日を利用して叔父の作品を手本にツルの編み方などを研究し始めた。10年前からはツル籠づくりに専念している。
籠つくりは山葡萄のツル取りに始まる。時期は、毎年6月、梅雨の時期に限られる。山葡萄のツルは非常に硬く丈夫なので、水分を多く含んで柔らかくなる時期でなければ皮をきれいにむくことができないからだ。また、大雨だと山には入れないので、採取するチャンスは年間数日しかない。
籠つくりは山葡萄のツル取りに始まる。時期は、毎年6月、梅雨の時期に限られる。山葡萄のツルは非常に硬く丈夫なので、水分を多く含んで柔らかくなる時期でなければ皮をきれいにむくことができないからだ。また、大雨だと山には入れないので、採取するチャンスは年間数日しかない。
毎年秋の下見が肝心
早朝から家族ら数人で山に入る。蚊取り線香やカマなどを装着。
沢や急斜面の続く道なき道を分け入り、木々に絡み付いている山ブドウのツルを見つけてカマやナタで刈っていく。
ただ、霧や雨の山中で山ブドウのツルを見つけるのは簡単ではない。
そこで実は、毎年秋にも山に入り、ツルの下見をしている。山ブドウの葉は赤く紅葉するが、ほかの木の葉よりも少し早い時期に色づく。
そのため、紅葉シーズンより少し早めの毎年2月ごろ山に入ると、山ブドウの葉だけ少し赤らんでいる。
それを記憶しておいて、梅雨の季節の採取時の参考にしている。
刈るツルは太さ直径4~5センチから15センチぐらいのものまで。長さは10メートル程度に刈る。
編む籠の形状によって様々な太さのツルを使い分けている。刈ったツルはその場ですぐに皮をむく。
鬼皮という一番外側の皮は使わず、その下の一番皮を、裂けたり曲がったりしないように丁寧にむいていく。
日当たりの良い場所で育ったツルは、皮も上質できれいにむける。むいた皮はヒモで束ね、背負って山を下りる。
水分を多く含んだツルはとても重く、下山も一苦労だ。雨で地面がぬかるんでいることも多いし、岩場のコケに足を取られそうにもなる。
採れたツルの束は陰干しして保管しておく。長く日光にあてると変色するので、湿気の少ない建物内に置いている。
籠を編む際には、まず乾いたツルを半日ほど水に浸して柔らかくする。
手でむいただけのツルをハサミで成形して幅をそろえたら準備完了。
籠の形状や大きさごとに角型、丸型など約100種類の木型があり、型をあてながら編んでいく。
少し湿った状態で編み進めるが、ツルが再び乾燥すると縮むので、編み目が緩まないように目を詰めながら編むのがコツだ。
大きさによるが1つ作るのに4~5日かかる。形が出来上がったら木型をはめたまま乾燥させて完成となる。
角度で変わる表情網代編み、棚編み、乱れ編み、花模様など伝統的に多様な編み方がある。
代表的なのは「連続伊網代編み」で、竹細工のように縦横にツルを編み込んでいる。見る角度によって模様が変わり、シンプルながら飽きない。従来は使わなかったツルの節をあえて生かした節付き乱れ編み」はオリジナルの編み方として作っているが、これも大胆な表情が特徴で面白みがある編み方だ。
取っ手など動く部分は傷みやすいが、本体は100年長持ちすると言われている。使えば使うほど手になじみ、籠には艶が出てくる。
今は編み手もわずかになった一方、工芸品として注目されて全国から注文が入るため、生産は追いつかない。
私が作れるのは妻に手伝ってもらって年間100個程度。後世に使い継がれる籠をたくさん作っていきたい。
(しだ・ゆうはん=ツル細工作家)